イギリスやフランスによくある有名紅茶ブランドでは、一つの商品はいつでも同じ味と香りであることが必要とされます。
例えば人気ブランド『フォートナム&メイソン』の紅茶に「イングリッシュ・ブレックファスト」というものがあります。この紅茶を繰り返し求める人は、いつも同じ味を期待して買います。「いつも同じ味と香り」であることがブランドの宿命なのです。
でも前回のお話のように「紅茶は農産物」です。同じ産地の同じ茶園でも昨日製茶したお茶と今日製茶したお茶はキャラクターが異なります。
ではイギリスやフランスの紅茶ブランドでは、どのようにして均一の味と香りを作っているのでしょう?
答えは「ブレンド」です。大手紅茶メーカーにはプロの「ブレンダー」がいて、そのメーカーのブランドの味を作り出すために、様々なキャラクターの異なる紅茶を混ぜ合わせて、いつも同じ味と香りを作り出しているのです。
この「ブレンド」という技術は、クオリティや生産量が必ずしも一定ではない「農産物」を扱う紅茶業界にとっては画期的な技術ではあるのですが、一方でこの画期的な技術には、大きく2つの問題点があると私は考えています。
という訳で「イギリスではない理由(その2)」です。
ブレンドの持つ2つの問題のうち、一つは以前このコラムでもご紹介したことのある紅茶の「消費期限(品質保持期限)」の問題です。
普通、食品は製造日を基準にして「消費期限」が設けられるのに対し、殆どの紅茶は「製茶工場で製茶をした日」ではなく、その紅茶を「パッケージした日」もしくは「ブレンドした日」を基準にして「消費期限」が設定されています。
しかも困ったことに、その紅茶がどんな紅茶で作られているか、もしくはどんな加工がされているかということは「企業秘密」として一切明かされません。
これでは極端な話、古くなった紅茶をパッケージしなおせば、永遠に消費期限を伸ばすことも出来ますし、それをブレンドすれば「新しい紅茶」として売り出すことも可能です。実際、「消費期限」内であるにもかかわらず、茶葉本来の香りが失われてしまっている紅茶が、いかに多いことか!
これは単に保存方法の問題なのかもしれませんが、こうした「販売側の都合」の温床となりかねない品質表示は、結果的に新鮮な紅茶のおいしさを広めるのに妨げになる恐れがあります。
当店は「摘みたての紅茶の香り」を一人でも多くの方に広めたいと考えています。そのため、必然的にこうした品質表示になってしまう「ブレンドした紅茶」は一切取り扱いません。そして全てのパッケージには必ず「収穫年月」を記し、その「収穫年月」を基準にして「消費期限」を設定しています。
そして、もう一つのブレンドの問題は「ブレンドの目的」そのものにあります。
そもそも「ブレンド」という技術は、イエローラベルで有名な『リプトン社』の創始者であるトーマス・J・リプトン卿が開発したと言われています。彼は、国や地域によって水質が異なることに着目し、様々なキャラクターの茶葉をその地域の水や消費者の嗜好に合うようにブレンドしました。この「ブレンド」のお陰で、紅茶が庶民に広く浸透したとも言われています。
しかし、ちょっと考えてみてください。私たちがデパートやスーパーなどで手に入れることができるイギリスやフランスから輸入された紅茶 ――― これはそれぞれの国の水質や消費者の嗜好に合わせてブレンドされているのです。
「イギリスではあんなにおいしい紅茶だったのに、お土産として買って帰ったら、全然おいしくなかった」
なんていう話はよく耳にします。必ずしも日本の水で飲んでおいしくなるようには作られていないのです。しかも前回お伝えしたとおり、「輸入」して「加工」した商品を再び「輸入」する訳ですから、鮮度が落ちてしまうこともしばしばです。
紅茶には、実に様々なキャラクターがあります。この様々なキャラクターの中には、わざわざ「ブレンド」という加工をしなくても、とびきり新鮮な、そして日本の水でおいしく味わうことのできる茶葉があるのです。そして産地ごとのキャラクターというのは、自然が作り出したものとは思えないほど、実に色んな味と香りがあります。
“自然の作り出す茶葉本来のおいしさを、そして様々なキャラクターの中から自分の好きな味と香りを見つける楽しさを、一人でも多くの方に味わっていただきたい”
それが「ブレンドした紅茶」を扱わない理由です。「ブレンドした紅茶」を扱わないのですから、わざわざイギリスを経由した紅茶を仕入れる必要はありませんよね。だから当店は「イギリスではない」のです。